

ごあいさつ
人口減や少子高齢化に悩む地方でまちおこしや地域課題の解決に取り組む団体を応援しようと、地方新聞47紙と日本放送協会、共同通信社が創設した「地域再生大賞」は本年度で15回目を迎えました。この15年を振り返れば東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨など頻発する自然災害や3年に及ぶコロナ禍が各地に暮らす人々の営みを直撃し、地方の疲弊に拍車がかかったと思わざるを得ません。昨年は元日に最大震度7の大地震、9月に豪雨と能登半島が甚大な被害に見舞われました。厳しい出来事ばかりに思いが向かいそうになりますが、目を凝らせば土地土地に根を伸ばし始めた再生の“芽”にも気付かされます。そうした試みを見出し、希望につなげていくことにこそ本賞の意義があるのではないかと考えます。
今回は「今、ここで暮らしたい 切り拓くエネルギー」がサブテーマです。高齢者の生活支援や若者の居場所づくり、伝統文化や食文化の継承など、世代や場所を超えて人と人をつなぎ、地域の可能性を追求する取り組みが全国から寄せられました。数年先ですら見通しにくい時代にあって、「今、ここ」で生きる方々の活動ほど確かなものはありません。皆さんのエネルギーが結び合い、未来を切り拓く力に発展していくことを願ってやみません。
第15回地域再生大賞実行委員会
委員長 石川 善太郎
(静岡新聞社 執行役員編集局長)
【選考委員長講評】
思いが重なり営みをつなぐ
沼尾波子選考委員長(東洋大教授)
エネルギーあふれる活動が全国から集まった。地域の人や資源を大切に育み、人々のつながりづくりや、地域経済循環の再構築を図るなど、暮らしの再生・創造に向けて、多岐にわたる取り組みが挙がった。若い世代の参画により、仕事や事業の創造につながる活動が増えたことが印象に残る。
大賞「そらいろコアラ」は、妊娠、出産、子育ち・子育てのプロセスで、悩みを相談できず困難を抱える人たちとつながり、丁寧に見守り支え合う独自のシステムを構築する。公的機関とは異なる立場からの専門家を交えた繊細なアプローチには目を見張る。
準大賞「キタ・マネジメント」は歴史と伝統のある街並み衰退の危機を前に、DMO(観光地域づくり法人)が地域住民と丁寧に関わり、観光を軸とした産業創造と、街並みの再生を果たす。同じく準大賞「ながよ光彩会」は、社会福祉法人が、駅員が午後不在となった駅を地域の拠点に変え、人々とつながるゲートウエーとして運営する新たなモデルを展開する。
地域で暮らす多様な人々の思いが重なり合って、暮らしの営みを豊かにつなぐ。そのエネルギーが地域の未来を切り拓くと感じた。


そらいろコアラ
(栃木県真岡市、団体所在地は栃木県小山市)
出産前からSOSキャッチ
望まない妊娠や経済的困窮といった出産・子育て期のSOSをLINE(ライン)の無料相談で受け止め、安心して過ごせる居場所を提供している。長いスパンで親子に寄り添い「助けてって言っていいんだよ」と伝え続ける。虐待を受けて育った子が、親になって不適切な養育を繰り返すことのないようにとの思いが出発点だ。
2020年に活動を始めた。医師や助産師、看護師、社会福祉士、保育士といった専門家、かつて同じように悩んでいた人、多くのボランティアがメンバー。行政や医療機関と連携し、栃木県内で約40の家庭を継続的に支援している。妊娠した若い人とやりとりを続け、病院の受診につながるケースもあった。
23年度はラインに700件近くの相談が寄せられた。妊産婦や赤ちゃんの居場所は延べ約170人、子どもと親の居場所は延べ約790人が利用した。
自宅訪問や物資提供でつながる。子ども食堂や親子体験イベントといった「入り口のハードル」を下げる工夫は民間のNPO法人ならではだ。


キタ・マネジメント
(愛媛県大洲市)
城下町再生、観光の街に
城下町の風情が残る街並みを守ろうと、空き家となった歴史的価値のある古民家を持ち主から借り受け、改装して分散型ホテルの客室や店舗への活用を進める。再生した建造物は30棟を超えた。観光の街としてにぎわい、新規出店や雇用の創出にもつながった。
高台にある大洲城の木造復元天守に泊まる「キャッスルステイ」を2020年に開始。宿泊費は高額だが、入城のセレモニーをはじめ、非日常の城主気分を味わえると話題を呼び、大洲の知名度向上に貢献した。
空き家再生により、傷んだ屋根瓦の落下といった事故の防止や、火災のリスク減少など、街の安全も向上した。


ながよ光彩会
(長崎県長与町)
福祉の力で駅にぎわう
地域の多様な人が集い、支え合う社会福祉法人の強みを生かし、にぎわいを創出している。公益事業拠点施設「みんなのまなびば み館」では、高齢者施設の入居者や介護職員、子どもたちが趣味や特技を教え合い、障害のある人も含め多くの世代が交流する。
町の基幹駅が午後は駅員不在となり、2023年に町の委託で構内に就労支援のカフェやショップを開設。JR九州から改集札や乗降介助業務も請け負う。観光列車「ふたつ星4047」の停車駅になり、外国人も含めた観光客のおもてなしを担う。地域の食材や木材を使った商品開発など、やりがいのある仕事を増やすことを目指す。


抱樸と「希望のまちプロジェクト」
(北九州市)
誰も取り残されないまち
冬の日、ホームレスの人々におにぎりと豚汁を届けたのが始まりだった。「あなたが諦めても、私たちはあなたのことを諦めない」。36年以上、生活困窮者に対する伴走型の支援を続ける。就労支援や住まいの確保、お年寄りや子どもの支援、障害福祉など活動範囲は大きく広がった。自立につなげたのは約3800人に上る。
「希望のまち」は活動の集大成。特定危険指定暴力団工藤会の本部跡地で来年3月の完成に向け、1月に起工式を行った。誰もが「助けて」と言えて家族のように支え合い、子どもたちを育む複合型福祉施設だ。建設費約15億円は、寄付や助成金などで賄う。


東三河フードバレー構想
(愛知県豊橋市)
食と農で連携、魅力発信
「食と農」をキーワードに地元の不動産会社「サーラ不動産」を中心に、生産者、料理人、消費者らがつながり、全国有数の農業地帯・東三河地域(豊橋市など8市町村)の魅力を発信するプロジェクト。地産地消や地域ブランド構築などに取り組む。
「フードクリエーターの聖地」を目標にかかげ、農家こだわりの食材を生かした特別な料理を提供するイベントや子ども向け料理教室、農家と飲食店のマッチング、地域外との連携などさまざまな事業を展開している。


南花台モビリティ「クルクル」
(大阪府河内長野市)
生活の足、自分たちで守る
オープンから40年以上が経過し高齢化が進む住宅団地で2019年から、買い物や通院の足として市が導入した7人乗りの電動カートの運行を続けている。70代の住民が中心となって運営する。予約制の有償運行と、決まったルートの無料運行(自動運転)があり、23年度は計延べ約3300人が利用した。
子どもの見守りといった住民活動が根付き、大学などと連携したまちづくりが盛んなことが大きい。地元スーパーも駐車場所、充電ステーションを提供して協力する。


くりはらツーリズムネットワーク
(宮城県栗原市)
体験通して地元を再認識
ラムサール条約に登録された伊豆沼に飛来する渡り鳥の観察や名産のレンコンの収穫、伝統料理の教室など、地域資源を生かした体験プログラムを年間100回以上開催する。観光客だけでなく、周辺自治体を含め住民も多く参加、地域の文化を再認識し、継承する機会をつくっている。伝統的建造物「長屋門」を再生・活用するプロジェクトにも取り組む。


TREE
(新潟県三条市)
商店街で若者チャレンジ
町家と併設された蔵をリニューアルしたハンバーガーレストランを拠点に、街の中心部にある商店街の活性化に取り組む。「やってみたいことを形に」をコンセプトに、新規出店や起業といった若者のチャレンジを支援し、既存の商店とも商品開発などで交流を図る。地元を舞台にしたアニメのグッズショップもオープン。全国から「聖地巡礼」のファンが訪れる。


能登地震地域復興サポート
(石川県能登町)
輪島塗預かり「お嫁」に
能登半島地震の被災者から、手放さざるを得なくなった輪島塗の器を預かり、大切に使ってくれる人に「お嫁」に出している。長く受け継がれてきた宝が、災害ごみとして捨てられることへの危機感がきっかけ。発酵食品など能登の伝統文化を発信する夫妻が中心となり、2千客以上を救い出した。傷のある器を、職人が現代風によみがえらせる取り組みも始めた。


株式会社中川
(和歌山県田辺市)
切らない林業、働きやすく
伐採後の山に木を植え、育てることを主要事業とする林業会社。植栽放棄を減らそうと2016年の創業以来、520㌶以上で植林した。苗木を運ぶドローンを導入して作業員の負担を軽減し、副業歓迎で自由度の高い働き方を実現した。同様の事業形態は県外にも広がる。子どもたちが拾ったドングリを苗木づくりに生かし、環境教育にも力を入れる。


「老いと演劇」OiBokkeShi
(岡山県奈義町)
共生社会へ多彩な個が表現
岡山に移住した介護福祉士の俳優が中心となって旗揚げして約10年。高齢社会のさまざまな課題をテーマに演劇活動を展開する。認知症ケアと演劇を結びつけたワークショップを通じて、認知症の当事者や障害のある人、介護者、地域住民が作品を練り上げていく。舞台上で多彩な個が輝き、年齢や立場を超えて人々が結びつく。共感の輪は県外にも広がっている。


あきづ
(沖縄県豊見城市)
若者支援、エイサー披露
団地を拠点に、やんちゃな若者やさまざまな境遇にある人の支援、子どもの居場所づくりを行う。若者への格闘技指導から始まった活動は、地域の見守りや清掃などへ幅を広げ、NPO法人を発足。休止していた青年会活動を復活させ、郷土芸能のエイサーはお年寄りにも喜ばれている。若者にやりがいのある仕事をと、ごみ収集の会社も設立した。

北海道・東北

みる・とーぶプロジェクト実行委員会
(北海道岩見沢市)
旧産炭地の廃校でアートイベント、移住者呼ぶ

地球岬街道夢の森づくりの会
(北海道室蘭市)
ごみ処分場跡地で苗木植樹、市民の憩いの場に

Performing Arts Community
(青森県弘前市)
ダンスの祭典に5万人、経済効果16億円

八戸クリニック街かどミュージアム「白マドの灯」
(青森県八戸市)
映画館がなくなったまちで美術館が上映会支援

みやっこベース
(岩手県宮古市)
震災を機に設立、子どもや若者に居場所や体験の場

あきた元気俱楽部
(秋田市)
県都の駅前で「まちなか花火」、一大イベントに

庄内洋食調理師会庄内DECクラブ
(山形県酒田市)
地元食材普及や料理人育成、美食のまちづくり

tenten
(福島市)
結婚などで県内に転入した女性の活躍後押し

なみえアベンジャーズ
(福島県浪江町)
復興が進む地域をご当地ヒーロー集団がPR
関東・甲信越

シルバーリハビリ体操指導士養成と普及事業
(水戸市)
1万人を養成、多くの参加者、住民の交流促す

南牧山村ぐらし支援協議会
(群馬県南牧村)
消滅可能性指摘の村、移住促進へ古民家バンク

神社でままマルシェ実行委員会
(埼玉県越谷市)
美容や飲食の出店、育児相談や絵本読み聞かせ

花びと会ちば
(千葉市)
約2千年を経て復活した「オオガハス」を発信

せんとうとまち
(東京都北区など)
都内で急速に減る銭湯を再生、コミュニティーの場づくり

よこはま縁むすび講中
(横浜市)
歴史、文化学ぶ探訪イベントで地元に愛着

カノエサル
(山梨県富士吉田市)
富士山にまつわる文化の再興・継続を目指す

いなだに竹Links
(長野県飯田市)
放置竹林の手入れを請け負い、メンマ販売
東海・北陸

増山城跡解説ボランティア「曲輪の会」
(富山県砺波市)
山城跡を拠点にイベント企画や歴史ガイド

越前海岸盛り上げ隊
(福井市)
楽しさと人々のつながり重視、自然や文化体験提供

朝日大学法学部生による自主防犯ボランティア団体「めぐる」
(岐阜県瑞穂市)
専門知識生かし、防犯パトロールや美化活動

遠州横須賀倶楽部
(静岡県掛川市)
商店や民家が年1回、各地の作家の展示会場に

明和観光商社
(三重県明和町)
「斎宮」跡でデジタルアートを投影、体験型プログラム
近畿

琵琶湖周航の歌の会
(滋賀県高島市)
歌にゆかりのある団体が一つに、地元の誇り取り戻す

亀岡オーガニックアクション
(京都府亀岡市)
移住者含め有機米栽培、学校給食や飲食店に供給

神戸映画資料館
(神戸市)
国内最大の民営アーカイブ、市民と作品発掘

ガマード奈良
(奈良県生駒市)
昭和の名曲中心に男声カルテットが精力的に活動
中国・四国

米子観光まちづくり公社
(鳥取県米子市)
町家を活用し観光案内、住民のまちづくりの拠点に

MASUDAカグラボ
(島根県益田市)
石見神楽継承へ若手中心に市内外で公演重ねる

minagarten(ミナガルテン)
(広島市)
園芸卸売会社跡地がコミュニティー施設と住宅に

環境まなび研究所
(山口県宇部市)
楽しみながら地球環境の大切さを伝える出前教室

瀬戸内寂聴記念会
(徳島市)
徳島市出身の作家の研究を支え、魅力を全国に発信

うたづの町家とおひなさん実行委員会
(香川県宇多津町)
おひなさん披露し、風情ある街並みを保全

フレイルサポート仁淀川
(高知県仁淀川町)
高齢者がトレーニングで体と心の若返り実感
九州・沖縄

嬉野茶時
(佐賀県嬉野市)
温泉やお茶、焼き物文化守る、「ティーツーリズム」も

しもうら弁天会
(熊本県天草市)
地域に伝わる伝統工芸をモチーフにした素焼き人形制作

舞鶴町青年会
(大分市)
新住民と祭りを維持・継承、子どもに獅子舞教える

平岩採介藻グループ
(宮崎県日向市)
藻場を再生、食害もたらすウニ駆除、漁場環境が回復

横川kito
(鹿児島県霧島市)
カフェやゲストハウスを備えたチャレンジ拠点で交流

UITEMATE沖縄
(沖縄県宜野湾市)
水難事故時の命の守り方を子どもたちに伝える